日高まきば文芸室

『終章:Nばかりが並ぶN-CUPの町』 作・船 旅人

この町はリタイア者にとってのユートピアかもしれない。野原とノスタルジアとのんびりと…。私は、この町をNばかりが並ぶN-CUPの町と呼びたい。
 
旅の終わりに訪れたのはレ・コードの湯でした。ホテルも併設されていますが、500円の入場料で1日過ごせる日帰り温泉です。

露天風呂で和んでいる時、「こちらの方ですか?」。声を掛けて来たのは、静岡からキャンピングカーを走らせて、「3月に定年退職したばかりで、夢の実現に…」やって来たという初老の紳士でした。

このレ・コードの湯のことは、アマチュア無線仲間に教えてもらい、リタイアと同時にキャンピングカーを購入し、南北海道を巡る3週間のきままな旅に出たのだといいます。

「往きにも寄ったのだけど、この温泉は、苫小牧までちょうど良い距離ですね。今夜のフェリーで本州に渡るつもり」といいます。

考えてみれば、北海道随一のフェリー港が苫小牧港です。名古屋からの太平洋フェリー、大洗からの商船三井フェリー、八戸からのシルバーフェリー。新日本海フェリーもやってきます。

そして、アマチュア無線氏が話すように、苫小牧から新冠までは車を転がすのにちょうど良い距離かもしれません。
 
ですが、筆者が思うのは、そんな便利さを上回るこの町のコンセプトの良さです。つまりリタイア族にとっての理想郷とは、「フィールド・オブ・ドリームス」。新冠にそれを感じたのでした。

齢を取れば取るだけ、名所旧跡や観光地を巡るせわしない旅はおっくうになるものです。ですが、この町にあったのは、そんな旅とは対極の、のんびりと時間を過ごすことが出来る「場所」。少なくとも半日、4時間は退屈することもなく過ごせて、のびやかな自然と昭和が満ちるノスタルジアに浸り、とにかくほっこりとできるのですから。

「レ・コードの湯」にはレストランもついていて、昼食には困らないし。

「レ・コード館」に行けば、昭和の音に浸ることができます。美空ひばりから小林旭、松任谷由実いや荒井由実も。小泉今日子から松田聖子。いやマイルス・デビスやジョン・コルトレーン。エルビスやビートルズも待っていてくれて、半日どっぷりと浸ることが出来ます。
 
オグリキャップの銅像がある「優駿スタリオンステーション」では、我が同輩?と思しき見学者が、オグリの走るビデオをずっと眺めて過ごしているのに出会いました。朝からずっとそこにいたのではと思わせる風に。

もちろん、リタイアしたばかりのサラブレッドに実際に乗ることができる「ホロシリ乗馬クラブ」に通い詰めれば、そのうち自由に乗馬が出来るようになるかも知れません。
 
ですが、何よりこの場所こそ「フィールド・オブ・ドリームス」だと感じたのは「サラブレッド銀座」と呼ばれるまっすぐな道と、その道筋にひろがる牧場。そこでのんびりとなごむリタイアした馬たち。

戦いを終えて…。そこは、人生の穏やかな終息を感じさせます。
 
そして、今年生まれたばかりの仔馬となごむ母馬の群れ。名もない仔らが、この先競馬場で走る姿を見てみたい。

こころが、優しさで満たされて行きました。
 
数回の、この連載をお読みいただいてありがとうございました。そして、話は最初に書いた「判官館の落陽」に戻ります。

「しぼったばかりの夕陽の赤が、水平線から漏れ…」始めました。
「もう帰ろう。もう、帰えってしまおう」(「祭りのあと」。吉田拓郎より)
 
今度この地に来るときには、フェリーで渡ろう。
もう一度、必ず、この新冠には戻って来たい。

船旅人

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1949年生まれ。専門新聞社の社長退任後、趣味の旅行を軸に文筆業を目指す。特に船を利用した旅を好む。

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